あの頃の楽しさに囚われて、今の楽しさが見えなくなっている人に贈る『ARIA』のなごやかな日常。

(本to美女より転載)

ARIA (1)

  • 著者:天野 こずえ
  • 出版社:マッグガーデン
  • 発売日:2002/10

 

冒険には出ない。
モンスターも出ない。
敵を倒すこともないし、かといって大恋愛をするわけでもない。
私が今日紹介したいのは、そんなひとつの物語。

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経営者が選ぶ1冊としては、少々パンチが足りないかとも思う。

ましては、私は若い頃いわゆるヲタクというやつで、自宅には2000冊以上の漫画を買い揃えており、その数は150タイトルを超えていた。
王道の少年漫画や、定番の少女コミックはもちろん、一風変わったマイナーな作品も好んで読んでいた。
その中でも、かけがえのない、私の道標のような作品が、このARIAなのだ。

つい忘れがちな人生を楽しむための隠し味

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本作品は、地球化されて水の惑星のなった火星に地球から水無灯里(みずなしあかり)がゴンドラ漕ぎを目指して星間旅行をするところからはじまる。
設定こそ大それたファンタジーであるものの、 主人公の灯里が、水の惑星についてからは、先輩ゴンドラ漕ぎのアリシアに弟子入りし、会社に下宿しながら修行を積んでいくというなごやかな日常を描いている。しかし、そこには幸せに生きていくヒントが盛りだくさん。

まるで、ヨガの聖典、ヨガスートラやバガバットギーターを読んでいるような気持ちにさえさせる。

まず、紹介したいのは、灯里たち半人前3人が、会社の創立者にして業界で伝説となっている、グランドマザーに会いに行く回。
灯里たち3人は、アリシアのようなゴンドラ漕ぎになるべく、アリシアの師匠でもあり、伝説のゴンドラ漕ぎのグランドマザーに教えを請う。

てっきり、ビシバシと指導されるものだと思っていた3人を待っていたのは、とうもろこしの収穫や、虫捕りなど、ただ目一杯遊ぶこと。
遊び尽くして1日を終えてしまった3人は、見放されているのかと不安になりながらも、直接、アリシアのように名実共にナンバーワンのゴンドラ漕ぎになるための秘訣を問う。

血の滲むような努力もあったかもしれないが、現在のアリシアの地位を築いた理由について、「なんでもかんでも楽しんでしまう名人だから」と答える。

でもそれだけでは、苦しい時や悲しい時はどうすればいいのだろうか。

グランドマザーはこう続ける。

そんなモノはより人生を楽しむための隠し味だと思えばいいじゃない。自分の中で変えてしまえばいいのよ。なんでも楽しんでしまいなさい。

とっても素敵なことなのよ
日々を生きているっていうことは。
とっても簡単なことなのに、みんなつい忘れがちなのよね

ありふれた毎日のなかに潜む奇跡に気づくこと

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 私は今、ヨガインストラクターをしながら、ヨガスタジオを経営している。それまでは、女優業をメインに芸能活動をしていた。芸能活動を続けていく中で、こんな考え方は私には一切なかった。

ストイックにストイックに、役を作っていっても、満足できるものは出来なかったし、理想と現実との距離を測るばっかりで、日々の全てを楽しむなんて少しも思わなかった。

こんな優しい世界を現実に創りたいと思い続けて、ようやく今年の7月に、ARIAからインスピレーションを受けた全てを空間に取り入れてヨガスタジオをオープンした。

「ありふれた毎日のなかに潜む奇跡に気づく」というのは会社のビジョンでもあり、私の人生のテーマでもある。

今では、ほんの少しだけグランドマザーの訓えが分かる気がする。
もちろん、経営者として数字と向き合わなければいけないこともあるけれど、それに囚われることなく、来てくださる生徒さん一人一人の気持ちを嬉しく感じるし、そう感じられる自分の日々の生活を愛おしく思う。

あの頃の楽しさに囚われて、今の楽しさが見えなくなってしまった人へ

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灯里、藍華、アリスの3人はそれぞれ別の会社に勤めるゴンドラ漕ぎで、本来であればいわゆる競合のライバル社員たちである。その3人は会社の垣根を越えた、一人前を目指して修行を共にする仲良し三人組。

その3人のそれぞれ直属の先輩である、アリシア、晃、アテナは水の三大妖精と讃えられる業界を代表するゴンドラ漕ぎである。

その3人の先輩たちも、半人前時代は、会社の垣根を越えて仲良く練習を重ねていた。
そんな日々を振り返って、あの頃は3人いつも一緒で楽しかったと、そして、忙しくてたまにしか会えない今が嘘みたいだと、昔を懐かしむ先輩たちを見て、灯里たち3人は、いつの日か自分たちもそうやって、それぞれ忙しくなって3人一緒が当たり前じゃない日が訪れることに憂う。

そんな後輩3人を見て、アテナとアリシアがこういうのだ。

「あの頃の楽しさに囚われて、今の楽しさが見えなくなっちゃったらもったいないもんね。あの頃は楽しかったじゃなくて、あの頃も楽しかった…よね」

「きっと本当に楽しいことって比べることじゃないのよね」

「今が楽しいと思えることは、今が一番楽しめるのよ。
だからいずれは変わっていく今を、この素敵な時間を大切に」

これはARIA全話を通して一貫して伝えられていたメッセージだと思う。

素敵な今を大切に生きること。

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私にも、戻りたい「あの頃」がたくさんある。

いつまでも裸足で校庭を駆け回っていた自分の感覚なのに、気がつけば女優になり、ヨガ講師になり、経営者になっていた。
大切なものを失くして、また別の大切なものが出来たりした。
その変化は嬉しさよりも、寂しさの方が少しだけ勝るかもしれない……。

このシーンは実は最終巻にも登場する。
その時には灯里を取り巻く全ての状況がこの時とは変わっている。
そして、みんながいるこの想い出に留まりたくなる灯里だが、「今」を選んでその過去の想い出からそっと抜け出す。その描写は思わず涙がほろりと溢れる、胸がいっぱいになる思い入れのある一幕だ。

いずれ、懐かしい「あの頃」になる今を精一杯楽しんで味わっていこうと思わせられる。

まだ何者でもない自分が幸せであるために

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思い返すと初めてARIAに出会った中学1年生の頃、そんなにこの作品を特別愛してはおらず、あくまで貯蔵するたくさんの書籍たちの1冊に過ぎなかった。
魅力に気づく、なにか大きな出来事があったわけでもない。
ただ、ライフスタイルや趣味の変化、引越しによって少しずつ漫画の数を減らしていった時にも、大切に残していた。今は唯一新居にも持ってきている漫画である。

150分の1の存在でしかなかったARIAは、気がつけば30分の1になり、10分の1になり、唯一無二の作品になって、そして、私の人生になった。

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まだ、自分が何者であるか決めていない。
ヨガ講師というのも、起業家というのも、経営者というのも、自分を表しているとは思えない。
でも、今後、どんな未来を選んだとしても、「今を楽しみ続けること」をARIAが何度でも思い出させてくれるから、10年後も20年後も、私はきっと幸せでいると思うのだ。

ARIA (1)

  • 著者:天野 こずえ
  • 出版社:マッグガーデン
  • 発売日:2002/10

 

モデルプロフィール

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WRITERこの記事をかいた人

吉田 なる

神奈川県出身。女優業で心身共に参っていた自分がヨガを通して救われた経験から、ヨガ講師に転身。 2014年AQUAカンパニー創業。ヨガの実践が心身のさまざまな不調を改善してくれることをより多くの人に伝えるべく、2016年7月に「溝の口、ここヨガ。」をオープン。五感に響くレッスンを行っている。根は生粋のオタク。